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≪取扱作品≫
・長編『宇田川社警護部特殊警護課K班 -再試行&再生&再利用-』
・短編集『それはつめたくてあたたかいもの』

2013年10月19日

なんちゃって裏社会コメディ『死炉苦炉』

 その界隈で「桜井組」と言えば、知る人ぞ知る麻薬を取り扱う事で有名な巨大組織である。
 その桜井組のボスには樹という名前の一人息子がいた。樹は実家がそういった組織である事をひた隠しにし、いたって平凡な高校生活を送っていた――のだが。
 ある冬の日、その夕方。

「桜井樹は預かった。返して欲しければ見つけてみろ。見つけられるものならな」

と書かれた手紙と、県内各所の雑居ビルから廃墟、山小屋の住所が羅列した紙束が送られてきた。
 樹のケータイには繋がらない。どころか、電源が切られているようだった。既に学校を出て帰路に着いている時間。ほとんど寄り道をせずに学校から帰ってくる樹がまだ帰宅していないという事が、何よりその脅迫状に真実味を与えていた。

「君たちを呼んだのは他でもない。ウチの馬鹿息子を探し出してきてもらいたいんだ」
 桜井組のボスは、呼び出した2人に件の脅迫状と住所のリストを見せて、そう言った。
 呼び出された赤髪の男と銀髪の女は、張り詰めた表情でボスの言葉の続きを待つ。
「リストにあるのは全部で168件。そのうち県外の住所が68件。県外の方は他の者に任せるから、君たちには県内の方――100件をあたってもらいたい」
 まったくやれやれ、と肩を竦めてボスは言う。
「期限は3日後。それを過ぎたら身の安全は保障出来ないという旨の脅しもきちんと書かれていた。大方、3日後の取引の妨害をしたいのだろう。樹を誘拐し、その捜索に人員を割く事で取引の準備をさせない気なんだ」
 ボスは2人の顔を交互に見た。
「取引の準備は予定通り行う。だから必要以上に樹の捜索に人員は割けない。他の者には難しいかもしれないが、君たちになら出来るだろう? これくらい」
 その言葉に、赤髪の男は軽く笑った。
「当たり前じゃないっすか。出来るに決まってます」
「そうだろうね」
 ボスもそれに釣られたように笑い、その笑みを更に深める。
「それじゃあ任せたよ――桜井組幹部の石動異散くん、一木冴夏くん」

「しっかし、いーくんも馬鹿だねぇ。このタイミングで攫われるなんて、絶対に今日発売の週刊漫画雑誌を買いにコンビニ行ったところをダイレクトに狙われてんじゃん。馬鹿っていうか無様すぎるでしょ」
 身支度を整え車の助手席に乗り込み、冴夏は言った。
『仕方ない。イツキだもの』
 ケータイのメモ帳に書いた文章を音声化させて冴夏に聞かせながら、異散は運転席に乗り込む。
 でこぼこな会話だが、目の見えない冴夏と声の出せない異散にとっては、これが通常のコミュニケーション方法なのである。
「そうだね、いーくんなら仕方ないよね。昔っから妙なところでドジなんだから――全く。だーから大人しく宇田川社さんに護衛を頼んでおけば良いって言ったんだ」
『コナツ、あんまり心配してないでしょ』
「まぁね。だってほら、いーくん土壇場で強いし」
『そうだけど』
「ね? まぁ気楽に行こうよ。どうせ今回も居上組の仕業なんだろうし、いーくんも殺されはしないっしょ」
『そうだろうけど』
 そんな風にどこか気の抜けた会話をしつつ、異散は車のエンジンをかけた。
「100件って数字は多いのか少ないのか、一般的に見てどうかは知らないけど、俺らにとっては少ないよね」
 なんて言ったって俺らは、と冴夏は邪悪な笑みを浮かべる。
「俺らはここのボスに拾われるまで、この辺りじゃ最強のゴロツキだったんだからさ。顔は広いし、情報網だって伊達じゃない」
 冴夏の言葉に、普段はあまり表情の変わらない異散も、少しだけ口を歪める。言うまでもない、とでも言いたげな表情で、異散はサイドブレーキを下げ、ギアを握った。
 そうして2人を乗せた車は、すっかり日の落ちて暗い街へと勢いよく飛び出した。


 それから、あっという間に期限の3日後へと時間軸は飛ぶ。
 異散と冴夏の持つ情報網を最大限に利用したにも関わらず、樹の幽閉されている場所の特定にはかなりの時間がかかってしまった。それはつまり、今回に限っては居上組が本気で妨害をしているという事である。
 結局2人は、ほとんど虱潰しのようにリストの住所を当たって行く事になった。
 リストに挙げられていた住所にはさまざまなトラップが仕掛けられていたりもして、2人とも満身創痍とはいかずとも傷だらけにはなっていて、超人並みのスタミナを持つ2人も、今回ばかりは疲労の色が強く出ていた。冴夏からは徐々に笑顔が薄れ、異散からは殺気がだだ漏れな状態である。
「それじゃあ、ここで100件目――最後なわけだけど。ちーちゃん、大丈夫?」
『大丈夫』
「ここが最後だし、ここにいるんだろうけど、もしここに居なかったらどうしよう」
『もう帰りたい』
「そうだねぇ。帰ってビールでも飲みたいや」
『右に同じ』
 街外れの廃工場を前にして二人は一度目配せし、拳銃を構えると工場へと足を踏み入れた。
 ――その時だった。
 奥の方から、ガシャアン!、という派手に物が倒れる音がした。
 誰か居る。間違いない、ここに樹がいる。
 確信した2人は、一気に廃工場を駆け抜ける。
 大丈夫だろうとは思うが、万が一という事もある。樹に死んでほしくはないのだ。
 平凡を望む樹は、しかし組織を嫌わない。裏社会の人間だからと言って、偏見を持たない。差別をしない。
 樹のそういうところが気に入っている連中は、組織の中には多い。異散や冴夏も、その連中のうちに含まれる。
 急いで音のする方へ向かう最中も、派手な物音は止まない。断続的に音は廃工場に響き渡る。
「いーくんっ!!!!」
 冴夏が勢いよく扉を開ける。
 扉を開けたその先に待っていたのは――

「ざ、ざざざ残念だったな! 僕は喧嘩ならそれなりに強いんだっ! ……って、あれ? 生きてる? 息してます? うそ、手加減は全くしなかったけど、僕はまだ素手で人を殺せるほど強くはないはずだよ……?」

 恐らくは居上組の構成員であろう双子を気絶するまで殴り倒した樹の姿が、そこにはあった。が、相手が気絶する事は予想外だったのか、おろおろと無様に動揺する樹。監禁していた相手を打倒したとは思えない有り様である。
「あ、異散さんに冴夏さん、お久しぶりです! 助けに来てくれたんですねっ!」
 目の前の惨状とは不似合いの笑顔を浮かべ、樹はひょこひょこと2人の方へと駆け寄る。
「僕なら見ての通り無傷です。まぁこの3日間、水しか飲んでないのでお腹は空いてますが……」
 よく見れば、樹の笑顔は普段より力ないそれだった。
『待たせてごめん』
「いいえ、大丈夫ですよ異散さん。大丈夫、ですけど――」
 大丈夫と言いながら、樹の身体は前のめりに倒れていた。どうやら今しがたの喧嘩で、体力を使い果たしてしまったようである。反射的に樹の腕を掴んだ冴夏は、そのまま樹を背負う。
「じゃ、帰ろっか」
 冴夏の言葉に異散はこくりと頷く。
 そうして2人は樹を取り返し、廃工場を後にした。


「しっかしまぁ、今回はちょっとだけあの双子に同情しちゃうよねー」
 車の助手席に乗った冴夏は、電話でボスに樹の無事を伝え終え、伸びをしながら言った。
「いーくんは窮地になればなるほど喧嘩に強くなっちゃうんだからさ。3日も監禁してたら、そりゃあクライマックス迎えちゃうよ」
 車は夕暮れの田舎道を駆け抜ける。
 桜井樹誘拐事件は、こうして事無きを得たのであった。


終わり
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……と、いうわけで。
ついったの診断メーカーにて、
桜井樹 巨大麻薬カルテルのボスの一人息子。普段はそれを隠し普通に生活している。しかし、組織抗争に巻き込まれ… 口癖は「残念だったな!」http://shindanmaker.com/389754
なんて結果が出て、それから派生したものをついったでちょろっと書いたのですが、その延長戦というか拡張版というのが今日の記事です。
『しろくろ』のなんちゃってパロディ、『死炉苦炉』でした。
樹くんが追い詰められたら喧嘩強いっていう設定は、まぁこのパロディ内のみの設定と言う事で(笑)
書くのに思いの外時間がかかってしまいましたが(約1時間半)、まぁ楽しかったです。THE 自己満足。
今日は日付偽装でした。
posted by 爽川みつく at 23:59| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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