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≪取扱作品≫
・長編『宇田川社警護部特殊警護課K班 -再試行&再生&再利用-』
・短編集『それはつめたくてあたたかいもの』

2008年07月19日

修復不能C

――――――/―

気が付くと、目の前に一人の女の子がいた。
 「あ……。起きた?」
 「うん、まぁ」

ゆっくりと身体を起こし、目の前の人物を確認する。
見覚えの無い子だ。一体誰なんだろう。

 「帰り道に血まみれの惺がいて、びっくりしたんだからね?」
 「そう、なんだ」

血まみれ? 僕が?
どこも痛くないのに?

 「不良にでも殴られたの? 本当、今日の惺は珍しい事ばっかりするね」
 「だから気のせいだって」
 「そうだね。惺は惺だもん。約束は、きちんと守ってくれたしね」
 「約束?」

 「うん。あたしの誕生日に、とっておきの景色を見せてあげるって。ずっと昔の約束だけど、この約束だけは破った事ないもんね、惺」
 「……………………」
 「今年は夕日かぁ。あ、確かこの約束した日も夕日が見えたよね」
 「……………………」
 「覚えてる? あの時、惺が何て言ったか」

覚えてるはずが無い。
僕は彼女が誰か、分からないんだから。
知らない人との思い出なんて、ある訳が無い。

だけど。
僕の口は、勝手に動き出した。

 「『僕はお金をかけたプレゼントを贈るつもりはない』だろ?」
 「そうそう。最初は何言い出すのかと思ったけど。でも、案外そっちの方が嬉しかったり」
 「今年は結構苦労したんだぜ?」
 「それだけ血まみれだもんね。本当、何してたの?」
 「とある大型犬の尻尾踏んだら噛み付かれた」
 「あはは。馬鹿じゃん」

 「でも、不思議と痛くないんだ」
 「うわ、それ重症だって。病院行った方良いよ」
 「いや。病院は、いらない」
 「そうなの…? まぁ、強制するつもりはないけど。いきなりぶっ倒れないでよ?」
 「まかせとけって」

 「ねぇ惺。来年はどんな景色を見せてくれるの?」
 「そんなの言ったら、楽しみが無くなるだろ? それに―――」

僕はもう、消えてしまうだろうから。

 「惺? 何あたしの肩によりかかってんの?」
 名前も知らない彼女の隣は、不思議と居心地が良くて。
 「やっぱり病院行く? 犬って以外と力あるんだよ?」

余計な血液が抜けた分、心が穏やかで。

 「ちょっと、聞いてる? 起きろー」

ゆっくりと、僕は。『僕』は。

 「ここで寝ちゃっても、あたし運べないからねー」

消えていく。消えていこう。

 「…………ねぇ? さ、とる……?」

さようなら。
ばいばい。
また明日。

思いつく限りの別れを告げて、『僕』はカラになる。



posted by 爽川みつく at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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